あなたは毎日忙しい。仕事はもちろん、友達との食事や習い事。あなたのスケジュールを埋める数々の予定の中で、もしかしたら「観劇」は範囲外のことかもしれない。でも一度だけ、ちょっと出来心を起こして足を運んでほしいのだ。

 

あなたは地下鉄中島公園駅で降りる。中島公園には何度も訪れているけれど、そのすぐ隣に劇場があることは初めて知っただろうか。雰囲気の良いカフェの前を通り過ぎ、「札幌座公演『ダニーと紺碧の海』」と書かれた看板に気付く。そこがシアターZOOだ。

地下へ続く階段を下りながら、あなたは昔よく通ったライブハウスやクラブを思い出す。ワクワクするようなことは、大抵地下の別世界にあるものだ。

中へ入ると、白い砂が敷き詰められた舞台上に、一人掛けのテーブルと椅子。

客席に座り流れている音楽に耳を傾けながら、熱に浮かされていたような若い頃のことを懐かしく思い出していたあなたは、ふと顔を上げて驚くだろう。

目の前には、いつかのあなたのような女が一人、グラスを傾けているからだ。

女は踊り出す。がら空きのフロアで、音に身を任せながらけだるく過ごしていた時間が、あなたの中によみがえる。そこに現れる、金髪の男。

グラスが落ちる音で、あなたは我に返る。目の前の二人は、激しく言い争っている。

荒れ狂う感情をぶつけ合う男と女。ぶつかり合って、ぶんぶん振り回して、交じり合う。

あなたは思い出す。

この夜の主人公は自分たちで、「今、私たちはお互いに求め合っている」と感じられる、絶対的な、あの感覚。そして、思いがけず心が触れ合ったときの、無防備な気持ちの高まりを。

でも、あなたは知っている。朝が来ると、それらがたちまち消えてしまうことを。

女の態度を見て、「やっぱりね」とあなたは思う。そして、動揺する男に少しばかり胸が痛みながらも、「あれはお互い演じていただけじゃない。その時間は終わったのよ」と思うだろう。

それなのに、男はあの時間こそが本当だったと言う。「俺たちだって、強く望めばそれが手に入るんだよ!」。

すり切れそうな二人のやり取りに、あなたは息をするのを忘れる。

うまくいくはずがない。

でも、本当はそんなこと、誰にもわからないのではないか?

 

帰り道、きっとあなたは、光に照らされきつく抱きしめ合う二人の姿を、何度も思い出す。

そして「もう一度だけ、バカみたいな恋愛をしてみてもいいかもしれない」と考えている自分に気付いて、苦笑いするのだ。自分の中にまだ残っていた無鉄砲さに、ほんの少しのうれしさを感じながら。

 

※1/25(土)Bキャストを観劇。

※2/2(日)まで毎日上演。開演時間など詳細はこちらをどうぞ。

(編)

 

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